監修:国際医療福祉大学医学部脳神経内科学 教授
村井弘之先生
監修:国際医療福祉大学医学部脳神経内科学 教授
村井弘之先生
2022年5月に、重症筋無力症の診療ガイドラインが8年ぶりに改訂されました。とくに成人期発症の重症筋無力症の治療に関わるガイドラインの改訂ポイントと、これを踏まえた重症筋無力症の新しい治療戦略について、ガイドライン作成委員会の委員長の国際医療福祉大学医学部脳神経内科学主任教授 村井先生による解説をご紹介します。
5. 成人期発症全身型MGの治療指針 5-1 治療の基本的考え方
Clinical Question 5-1-1
治療上の基本的な考え方は
成人発症MGの治療上の基本的な考え方として、この項目は2014年のガイドラインと変わっていない。
患者さんのQOLやメンタルヘルスを考慮して治療戦略を立てるためには、診察時に患者さんの状態を十分に聞く必要があることを念頭に置いていただきたい。とくに症状の日内変動や日差変動が起こりやすいgMG患者さんにおいては診察室での様子のみならず、日常生活での不都合や不便がないかについて問診することが重要である。
2014年のガイドラインに引き続き、今回のガイドラインでも治療目標であるMM-5mgを早期達成するよう治療戦略を考えることを推奨しているが、そのために、早期速効性治療戦略(EFT)が有効であることと、漸増漸減による高用量経口ステロイド療法を推奨しないことが明示された。
EFTの詳細については後述する。
今回のガイドラインにおいて、「難治性MG」の定義が明示された。
一つは、「複数の経口免疫治療薬による治療」あるいは「経口免疫治療薬と繰り返す非経口速効性治療を併用する治療」を一定期間行っても「十分な改善が得られない」場合である。この『一定期間』とは1年程度と考える向きもあるが、エビデンスがあるものではないことから、ガイドライン上で明示はしていない。漫然と現治療を続けることなく、適切なタイミングでの治療計画の見直しを検討いただきたい。
もう一つの定義として、「副作用や負担のため十分な治療の継続が困難である」場合も難治性MGと定義された。現在の治療計画が患者さんにとって継続できるものであるかどうか、医師が考慮する必要があることを理解いただきたい。
5. 成人期発症全身型MGの治療指針 5-1 治療の基本的考え方
Clinical Question 5-1-2
早期速効性治療戦略とは何か
2014年のガイドラインにおいてEFTの必要性には触れられていたが、今回のガイドラインにおいてEFTの詳細と、MM-5mg早期達成のためにEFTが推奨されることが明示された。
現状での非経口速効性治療は、血漿浄化療法、メチルプレドニゾロン静脈内投与療法(ステロイドパルス療法)、免疫グロブリン静注療法、あるいはこれらを組み合わせた治療である。EFTで達成されたMM-5mgを維持するために間欠的なFTが必要となることが多いが、「長期的に頻回のFTを要し続ける患者は難治性MGに相当する」ことを理解いただき、治療上の基本的な考え方に沿った治療戦略を考慮する必要がある。
図1 病型ごとの治療アルゴリズムの概要
各病型(①OMG, ②g-EOMG, ③g-LOMG, ④g-TAMG, ⑤g-MuSKMG, ⑥g-SNMG)についての説明はCQ3-3を参照のこと.
抗コ薬:抗コリンエステラーゼ薬, PSL:プレドニゾロン, IVMP:メチルプレドニゾロン静脈内投与, EFT:早期速効性治療, IVIg:免疫グロブリン静注療法, PLEX:血漿交換, IAPP:免疫吸着療法, FT:速効性治療
脚注
1)ナファゾリン点眼液は表在性充血などに汎用される点眼液である. 本邦ではMGに対しての保険適用はない. 眼筋型のみならず, 全身型の眼瞼下垂にも有効である場合がある. あらかじめ薬剤部などで点眼用の容器に分注しておく必要がある.
2)眼筋型MGにおける経口ステロイドはプレドニゾロン 5mg 以下を推奨する.
3)眼筋型MGに対し保険適用になっている免疫抑制薬はタクロリムスのみである. 免疫抑制薬の投与開始時期はPSL開始の前後でもよい.
4)全身型MGにおける経口ステロイドはプレドニゾロン 10mg 以下にとどめることを推奨する. 多くても 20mg は超えないようにする.
5)本邦ではタクロリムスとシクロスポリンのみが保険適用である. アザチオプリンは正式な保険適用を有しないが, 診療報酬上, 原則としてその使用は認められる.
6)抗コリンエステラーゼ薬としては通常ピリドスチグミンが使用される. 症状が改善したら漸減中止を目指す.
7)胸腺摘除を行う場合, 球症状や呼吸苦などを有する症例では術後に症状の急性増悪(クリーゼを含む)をきたしやすいため, 術前にEFTなど十分な免疫治療を行う必要がある. ただし, その場合にステロイドパルス療法を単独で行うことは危険である. 非胸腺腫MGに対する胸腺摘除の適応についてはCQ5-2-1を参照のこと.
8)早期速効性治療は, 少量の経口ステロイドと免疫抑制薬で効果が不十分であれば速やかに行う. IVMPはIVIg, PLEX, IAPPと組み合わせて行うことを推奨する.
9)早期速効性治療をg-MuSKMGやg-SNMGに対して行うときには, IAPPの効果がPLEXよりも劣る場合があるためIAPPを選択しないことを推奨する.
10)AChR抗体陽性MG(②, ③, ④)でEFT/FTを行っても十分な治療効果が得られない場合には, 分子標的治療薬としてエクリズマブを用いることが可能である.
11)AChR抗体陰性MG(⑤, ⑥)でEFT/FTを行っても十分な治療効果が得られない場合には, 分子標的治療薬としてリツキシマブなどが有効な場合がある. 特にMuSK抗体陽性MGに対するリツキシマブの有効性は海外では確立しているが, 本邦では保険適用外である.
今回のガイドライン改訂においては、成人発症MGを6つのサブタイプに分類した(その詳細についてはガイドラインを参照いただきたい)が、その分類に沿って、治療アルゴリズムを明示した。
病型によって、経口ステロイドの具体的な投与量やEFTの詳細等について解説をしていることから、ぜひ脚注まで熟読をいただきたい。
本アルゴリズムに記載した「分子標的治療薬」とは、エクリズマブとリツキシマブ(本邦では保険適用外)を指している。2022年5月より日本で使用可能となったエフガルチギモドは本ガイドラインには記載されていない。
重症筋無力症の診療ガイドラインにおいて、とくに成人期発症重症筋無力症の治療に関わるポイントを紹介した。
今回のガイドラインではここで紹介した内容以外にも、 MGの診断基準の提示、各MG治療薬の詳細、ランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)の追加、LEMSの診断基準、LEMSの治療アルゴリズム提示など、重要な改訂を行っている。十分に参照して臨床応用いただきたい。
※本ガイドラインにおける推奨の強さ、エビデンスの強さについては以下を参照のこと。
1:強く推奨する (recommend) | 行うことを推奨する / 行わないことを推奨する |
---|---|
2:弱く推奨する (suggest) | 行うことを提案する / 行わないことを提案する |
A(強い) | 効果の推定値に強く確信がある |
---|---|
B(中程度) | 効果の推定値に中程度の確信がある |
C(弱い) | 効果の推定値に対する確信は限定的である |
D(とても弱い) | 効果の推定値がほとんど確信できない |
JP-VJP-23-00661(2023年11月作成)